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広島地方裁判所 昭和41年(わ)179号・昭41年(わ)162号・昭41年(わ)175号 判決

【主文】

一、被告人山本健次郎を懲役二年に、

被告人遠藤一彦を懲役一年六月に

被告人平賀千代麿を懲役一年六月に、

被告人竹岡誠を懲役一年二月に、

被告人橋廻譲治を懲役一〇月に、

被告人清水忍を懲役一年に、

被告人小笠原一男を懲役八月に、

被告人与迫工を懲役六月に、

被告人吉岡八重子を罰金一五〇、〇〇〇円に

それぞれ処する。

一、但し、この裁判確定の日から、被告人平賀千代麿に対しては四年間、被告人遠藤一彦、同橋廻譲治、同小笠原一男、同清水忍、同与迫工に対してはいずれも三年間、それぞれその刑の執行を猶予する。

一、被告人吉岡八重子においてその罰金を完納することができないときは、金五〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

一、被告人山本健次郎から、押収してある現金二〇、〇〇〇円(証第一八号)を没収する。

一、被告人山本健次郎から金二一九、〇〇〇円、被告人遠藤一彦から金二五、〇〇〇円、被告人平賀千代麿から金一二〇、〇〇〇円を、それぞれ追徴する。

【判決理由】(罪となるべき事実)

被告人山本健次郎は、昭和三三年八月一日文部事務官に任官し、同三九年四月一日から同四一年六月一日本件収賄等事件により懲戒免職となるまで、国立広島大学理学部学務係長として同大学の入学試験等に関する職務を担当していたもの

被告人遠藤一彦は、昭和三四年一一月一六日文部事務官に任官し、同三九年六月一五日から同四一年六月一日本件収賄等事件により懲戒免職となるまで、同大学学生部教務課教務係員として右同様の職務を担当していたもの、

被告人平賀千代麿は、昭和二三年三月三一日文部事務官に任官し、同三七年四月一日から同四一年六月一日本件収賄等事件により懲戒免職となるまで、同大学教育学部東雲分校学務係員として右同様の職務を担当していたもの、

被告人竹岡誠は、文部事務官として同大学学生部教務課教務係に勤務していたが昭和三六年五月四日退官した後、雑貨商を営み、同四一年度の同大学の受験生の父兄等から同年度の入学試験問題等の事前入手方等の依頼を受けていたもの、

被告人小笠原一男、同清水忍は、いずれも被告人山本の友人であり、右受験生の父兄等から右同様の依頼を受けていたもの、

被告人橋廻譲治、同与迫工、同吉岡八重子は、いずれも右受験生の父兄であつたもの、

であるが、

第一、被告人山本は、

一、被告人竹岡から、特定受験生のため昭和四一年三月三日から施行される同大学の入学試験問題等を事前に秘かに教示して貰いたい旨の請託を受けて、これを了承し、同被告人より、

(一) 昭和四〇年一二月中旬頃、広島市堀川町五番六号飲食店「鳥好」附近上において、右請託に対する謝礼として贈与されるものであることの情を知りながら、現金一〇、〇〇〇円

(二) 被告人遠藤と共謀のうえ、

1 同四一年一月二七日頃、同市松原町九番一号広島百貨店附近路上において、前同趣旨のもとに現金一九、〇〇〇円

2 同年二月一五日頃、同市皆実町三丁目九四一番地クラブ「レンガ」附近路上において、後記第一一の一記載のとおり、同大学の英語、国語の入学試験問題を被告人竹岡等に教示した職務上の不正行為に対する謝礼並びにその余の入学試験問題等を事前に教示して貰いたい旨の請託のもとに贈与されるものであることの情を知りながら、現金二〇、〇〇〇円

(三) 同月二一日頃、同市流川町二番六号飲食店「千八」附近路上において、後記第一一の一記載のとおり同大学の数学、化学の入学試験問題を被告人竹岡等に教示した職務上の不正行為に対する謝礼並びにその余の入学試験問題等を事前に教示して貰いたい旨の請託のもとに贈与されるものであることの情を知りながら、現金二〇、〇〇〇円

の各供与を受け、もつて自己等の職務に関して賄路を収受し、よつて後記第一一の一、二記載のとおり同大学の英語、国語、数学、化学、社会の各入学試験問題及び物理、化学、生物の各入学試験問題の正解答を被告人竹岡等に教示して職務上不正の行為をなし、

二、被告人橋廻等から、前記一冒頭掲記と同趣旨の請託を受けてこれを了承し

(一)1 同四〇年一一月下旬頃、同市西白鳥町一〇番六号喫茶店「G線」において、被告人橋廻の妻橋廻カスミより、右請託に対する謝礼として贈与されるものであることの情を知りながら、現金二〇、〇〇〇円

2 同四一年一月二七日頃、同市八丁堀一四番五号小料理屋「寿美」附近路上において、被告人橋廻より、前同趣旨のもとに現金五、〇〇〇円

3 同年二月一六日頃、同市西白鳥町五番三号被告人橋廻方において、同被告人より、後記第一一の一記載のとおり同大学の英語、国語の入学試験問題を同被告人等に教示した職務上の不正行為に対する謝礼並びにその余の入学試験問題等を事前に教示して貰いたい旨の請託のもとに贈与されるものであることの情を知りながら、現金二五、〇〇〇円

4 同月二八日頃、前記被告人橋廻方において、同被告人より、後記第一一の二記載のとおり同大学の社会、数学の入学試験問題を同被告人等に教示した職務上の不正行為に対する謝礼並びにその余の入学試験問題等を事前に教示して貰いたい旨の請託のもとに贈与されるものであることの情を知りながら、現金三〇、〇〇〇円

の各供与を受け、もつて自己の職務に関して賄路を収受し、よつて後記第一一の一、二記載のとおり同大学の英語、国語、数学、社会の各入学試験問題及び生物の入学試験問題の正解答を被告人橋廻等に教示して職務上不正の行為をなし、

(二) 同年三月一日頃、前記被告人橋廻方において、同被告人より、前記(一)のとおり不正行為をなしたことに対する謝礼として贈与されるものであることの情を知りながら、現金二〇、〇〇〇円(証第一八号)の供与を受け、もつて自己の職務上不正の行為をなしたことに関し賄賂を収受し、

三、被告人小笠原から、前記一冒頭掲記と同趣旨の請託を受けてこれを了承し、同年一月一二日頃、同市基町九番四〇号中国電力株式会社広島営業所において、同被告人より、右請託に対する謝礼として贈与されるものであることの情を知りながら、現金二〇、〇〇〇円の供与を受け、もつて自己の職務に関して賄賂を収受し、よつて後記第一一の一、二記載のとおり同大学の英語、国語、数学、社会の各入学試験問題及び化学、生物の各入学試験問題の正解答を同被告人等に教示して職務上不正の行為をなし、

四、被告人清水、同与迫の両名から前同趣旨の請託を受けてこれを了承し、同年一月三〇日頃、同市松原町所在国鉄広島駅前附近において、右被告人両名より、右請託に対する謝礼として贈与されるものであることの情を知りながら、現金一〇、〇〇〇円の供与を受け、もつて自己の職務に関して賄賂を収受し、よつて後記第一一の一、二記載のとおり同大学の英語、国語、数学、社会の各入学試験問題及び物理、化学、生物の各入学試験問題の正解答を被告人与迫等に教示して職務上不正の行為をなし、

五、被告人小笠原、同清水、同与迫、種清和夫等から前同趣旨の請託を受けてこれを了承し、同年二月二三日頃、前記小料理屋「寿美」において、同被告人等より、右請託に対する謝礼として贈与されるものであることの情を知りながら、現金六〇、〇〇〇円の供与を受け、もつて自己の職務に関し賄賂を収受し、よつて後記第一一の二記載のとおり同大学の社会、数学の各入学試験問題及び物理、化学、生物の各入学試験問題の正解答を被告人与迫等に教示して職務上不正の行為をなし、

第二、被告人遠藤は、被告人竹岡から特定受験生のため同記同大学の入学試験問題を事前に秘かに教示して貰いたい旨の請託を受けて、これを了承し、同被告人より

一、同四一年一月一五日頃、広島県佐伯郡五日市町海老塩浜宇古浜三二一番地の二五喫茶店「あまんじやく」附近路上において、右請託に対する謝礼として贈与されるものであることの情を知りながら、現金五、〇〇〇円

二、被告人山本と共謀のうえ

(一) 前記第一の一の(二)の1記載の日時、場所において、同記載の趣旨のもとに現金一九、〇〇〇円

(二) 前記第一の一の(二)の2記載の日時、場所において、同記載の趣旨のもとに現金二〇、〇〇〇円

の各供与を受け、もつて自己等の職務に関して賄賂を収受し、よつて後記第一一の一記載のとおり同大学の英語、国語、数学、化学の各入学試験問題を被告人竹岡等に教示して職務上不正の行為をなし

第三、被告人平賀は、

一、被告人竹岡から、特定受験生のため、前記同大学の入学試験問題等を事前に秘かに教示して貰いたい旨の請託を受けてこれを了承し、同四〇年一二月中旬頃前記飲食店「鳥好」附近路上において、同被告人より、右請託に対する謝礼として贈与されるものであることの情を知りながら、現金一〇、〇〇〇円の供与を受け、もつて自己の職務に関して賄賂を収受し、よつて後記第一一の一、二記載のとおり同大学の英語、国語、化学、数学、社会の各入学試験問題及び物理、化学、生物の各入学試験問題の正解答を同被告人等に教示して職務上不正な行為をなし、

二、被告人竹岡、同吉岡の両名から前同趣旨の請託を受けてこれを了承し、同四一年二月四日頃、同市猿猴橋町三町一七号茶房「ブランカ」において、右被告人両名より、右請託に対する謝礼として贈与されるものであることの情を知りながら、現金五〇、〇〇〇円の供与を受け、もつて自己の職務に関して賄賂を収受し、よつて後記第一一の二記載のとおり、同大学の社会、数学の各入学試験問題を被告人竹岡等に教示して職務上不正の行為をなし、

三、被告人小笠原、同清水、種清和夫等から前同趣旨の請託を受けてこれを了承し、同年二月二三日頃前記小料理屋「寿美」において、同被告人等より、右請託に対する謝礼として贈与されるものであることの情を知りながら、右山本を介し現金六〇、〇〇〇円の供与を受け、もつて自己の職務に関して賄賂を収受し、よつて後記第一一の二記載のとおり同大学の社会、数学の各入学試験問題及び物理、化学、生物の各入学試験問題の正解答を被告人与迫等に教示して職務上不正の行為をなし、

第四、被告人竹岡は、

一、被告人山本に対し

(一) 前記第一の一の(一)記載の日時、場所において、同記載の趣旨のもとに現金一〇、〇〇〇円

(二) 前記第一の一の(三)記載の日時、場所において、同記載の趣旨のもとに現金二〇、〇〇〇円

を各供与し、もつて同被告人の職務に関して贈賄し、

二、被告人山本、同遠藤の両名に対し

(一) 前記第一の一の(二)の1記載の日時、場所において、同記載の趣旨のもとに現金一九、〇〇〇円

(二) 前記第一の一の(二)の2記載の日時、場所において、同記載の趣旨のもとに現金二〇、〇〇〇円

を各供与し、もつて右被告人両名の職務に関して贈賄し

三、被告人遠藤に対し、前記第二の一記載の日時、場所において、同記載の趣旨のもとに現金五、〇〇〇円を供与し、もつて同被告人の職務に関して贈賄し、

四、被告人平賀に対し、前記第三の一記載の日時、場所において同記載の趣旨のもとに現金一〇、〇〇〇円を供与し、もつて同被告人の職務に関して贈賄し、第五、被告人竹岡、同吉岡は共謀のうえ、前記第三の二記載の日時、場所において、被告人平賀に対し、同記載の趣旨のもとに、現金五〇、〇〇〇円を供与し、もつて同被告人の職務に関して贈賄し、

第六、被告人橋廻は、被告人山本に対し

一、前記第一の二の(一)の2記載の日時、場所において、同記載の趣旨のもとに現金五、〇〇〇円

二、前記第一の二の(一)の3記載の日時、場所において、同記載の趣旨のもとに現金二五、〇〇〇円

三、前記第一の二の(一)の4記載の日時、場所において、同記載の趣旨のもとに現金三〇、〇〇〇円

四、前記第一の二の(二)記載の日時、場所において、同記載の趣旨のもとに現金二〇、〇〇〇円(証第一八号)

を各供与し、もつて同被告人の職務に関して贈賄し、

第七、被告人小笠原は、前記第一の三記載の日時、場所において、被告人山本に対し、同記載の趣旨のもとに現金二〇、〇〇〇円を供与し、もつて同被告人の職務に関して贈賄し、

第八、被告人清水、同職迫は共謀のうえ、前記第一の四記載の日時、場所において、被告人山本に対し、同記載の趣旨のもとに現金一〇、〇〇〇円供与し、もつて同被告人の職務に関して贈賄し、

第九、被告人小笠原、同清水、同与迫し種清和夫等と共謀のうえ前記第一の五記載の日時、場所において、被告人山本に対し、同記載の趣旨のもとに現金六〇、〇〇〇円を供与し、もつて同被告人の職務に関して贈賄し、

第一〇、被告人小笠原、同清水は、種清和夫等と共謀のうえ、前記第三の三記載の日時、場所において、被告人平賀に対し、同記載の趣旨のもとに、右山本を介して現金六〇、〇〇〇円を供与し、もつて同被告人の職務に関して贈賄し、

第一一、一、被告人山本、同遠藤、同平賀は共謀のうえ、昭和四一年二月一五日頃から同月二三日頃までの間に、広島市皆実町三丁目九四一番地クラブ「レンガ」附近路上等において、同被告人等がその職務上秘かに入手して知ることができた秘密である前記同大学の英語、国語、数学、化学の昭和四一年度の各入学試験問題を被告人竹岡、同橋廻、同小笠原、同与迫等に教示して漏洩し、

二、被告人山本、同平賀は共謀のうえ、同年二月二六日頃から同年三月一日頃までの間に、同市所在広島大学教育学部東雲分校正門附近路上等において、同被告人等が職務上秘かに入手して知ることができた秘密である前記同大学の社会、数学の同年度の各入学試験問題及び物理、化学、生物の同年度の各入学試験問題の正解答を被告人竹岡、同橋廻、同小笠原、同与迫等に教示して漏洩したものである。<中略>

そこで刑の量定について検討するに、本件は、広島大学の昭和四一年度の入試に関し、贈収賄並びに入試問題の漏洩が行われたもので、国立大学の入試に大きな汚点を残した極めて遺憾な事件である。近時、大学への入学志望者の激増する傾向にある一方、巷間、所謂裏口入学の声を聞かないでもないが、国立大学においては、かかる風聞は絶えてなかつたところである。由来、入試は、公平と平等が全受験生の上に斉しく約束されている点に、その価値と生命があり、被告人等がこれを冒涜し、その尊厳を犯したことは、単に広島大学の信用と権威を失墜させたばかりでなく、社会一般に国立大学の入試に対する信頼感をも失わせ、殊に、全力を尽して入試に臨んだ受験生やその父兄等に与えた影響は重大であると言わねばならない。更に本件が起因して、広島大学において学長、理学部長他七名の管理職の地位にあるものが懲戒処分となり(おそらく国立大学の学長が懲戒処分に付せられたのは異例なことであろう)、遂には学長、理学部長、教育学部東雲分校主事が引責辞任するに至つているのであつて、右の事実も本件量刑上看過しえないところである。

ところで、収賄側被告人三名は、公務員としての自覚と責任を忘れ、自己の職責を冒涜した責任は重大であるが、他面において、いずれも本件により懲戒免職処分を受け、公務員として通常期待しうる利益を剥奪されていること、及び本件を反省し悔悟の情を示していること、殊に被告人遠藤は、同山本、同竹岡から甘言及び饗応接待等により巧みに籠絡さて本件犯行に及んだこと、被告人平賀は本件についてやや積極性に欠き、むしろ同山本に引き廻された感があることなど有利な情状も認められる。しかしながら、被告人山本は、その地位も理学部学務係長であり、一層自己の職責を自覚すべき立場にありながら、本件について主導的役割を演じ、収賄の回数、金額等も多く、かつ自ら要求して右収賄をしたこともしばしばあることなどが認められるところである。(なお、検察官は論告において、被告人山本の弁護人は弁論において、昭和三八年度の入試における不正について論及される。同四〇年度の入試における不正については不起訴になつたとはいえ、或る程度の証拠により裏付けされているが、同三八年度入試の不正については、同山本の供述調書にその旨の記載があるのみで他にこれを裏付ける証拠は皆無であり、右調書の記載が必ずしも虚構のものといえないにしても、当裁判所としては検察側、弁護側双方の主張されるような事実については、被告人山本の犯行の動機に関する資料と供するにとどまり、その事実の存否についてはにわかに断ずることができないのである)

次に、贈賄側の被告人等についてみるに収賄側の不正の要因をなしたことの責任は重いといわざるを得ないが、被告人橋廻、同与迫、同吉岡は受験生の父兄であり、子女に対する盲目的な愛情の余り、その目的、手段を誤つて本件犯行に及んだもの、又被告人竹岡、同清水、同小笠原は受験生の父兄ではないが、さりとて検察官のいう所謂「受験屋」と称される、専ら営利を目的としたものではなく、その親戚、知己に受験生があり、これらの者の為に本件犯行に及んだものと判断される。しかしながら、被告人竹岡は、かつて広島大学学生部教務課に勤務していた前歴を有し、入試事務の厳正、重大性を知悉しながら最も積極的に収賄側被告人等に働きかけ、前記のように同山本と共に同遠藤を本件に引込み、起訴されていないけれども収賄側に多額に上る饗応接待をなし、その情重いというべきである。(なお被告人竹岡の弁護人から証拠書類を添付して事実報告書の証拠調を請求し弁論再開申請書が提出さたが、該事実を斟酌しても同被告人の犯情は刑の執行を猶予すべき程度のものとはいえない(小竹正 菅納一郎 反町宏)

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